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膿皮症 犬の症状と原因から治療法まで解説

膿皮症と犬

膿皮症とは?犬に多い皮膚病の基本知識
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細菌感染による皮膚疾患

膿皮症は皮膚に常在するブドウ球菌などの細菌が異常に増殖し、皮膚に感染することで起こる疾患です。

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犬に多い皮膚病

膿皮症は犬でよく見られる皮膚疾患の一つで、特に春から夏にかけての高温多湿の環境で発症しやすくなります。

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適切な治療が必要

放置すると症状が悪化するため、早期発見と適切な治療が重要です。獣医師の診察を受けることをおすすめします。

膿皮症の種類と犬の症状について

犬の膿皮症は、細菌感染の深さや程度によって主に3つのタイプに分類されます。それぞれ症状や治療法が異なるため、正確な診断が重要です。

1. 表面性膿皮症

表面性膿皮症は皮膚の最も浅い層である表皮の表面のみで細菌が増殖する状態です。症状は比較的軽度で、主に以下のような特徴が見られます。

  • 皮膚の赤みや軽度の炎症
  • 軽度のかゆみ
  • 皮膚表面の炎症

このタイプの膿皮症は、抗菌シャンプーや外用薬による治療だけで改善することが多く、最も軽度の膿皮症と言えます。皮膚のバリア機能が十分に保たれている場合、この段階で適切な治療を行えば、より深刻な状態に進行することを防げます。

2. 表在性膿皮症

表在性膿皮症は、表皮や毛包(毛が生えている部分)への細菌感染によって引き起こされます。犬の膿皮症の中で最も一般的なタイプです。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 皮膚の一部または広範囲の赤み
  • 強いかゆみ(犬が皮膚をかむ、かゆがる、擦りつける行動)
  • 赤いぷつぷつとした湿疹(丘疹)
  • ニキビのような小さな膨らみ(膿疱)
  • 白っぽいかさぶた(痂疲)
  • 部分的な脱毛
  • 炎症が長く続くと皮膚の色素沈着(黒ずみ)

表在性膿皮症は全身のどこにでも発症する可能性がありますが、特に顔や腋、股や指の間などによく現れます。

3. 深在性膿皮症

深在性膿皮症は、皮膚の奥深くにある真皮と皮下組織に細菌感染が及ぶ最も重度のタイプです。通常、表在性膿皮症が悪化することにより発症します。主な症状には以下のようなものがあります。

  • かゆみだけでなく強い痛みを伴うことが多い
  • おできのような腫れ(せつ腫)
  • 出血や膿を伴うただれ(潰瘍)
  • 広範囲の腫れや熱感
  • 重度の場合は発熱することもある
  • 体重がかかる箇所や胴体に見られることが多い
  • 脱毛、皮膚組織の浮腫、強い炎症

特にジャーマン・シェパードは難治性の深在性膿皮症が起こりやすい犬種として知られています。

犬の膿皮症の主な原因と細菌感染

膿皮症の主な原因は、犬の皮膚に常在するブドウ球菌(主にStaphylococcus pseudintermedius)が異常に増殖して感染することです。しかし、健康な皮膚では通常、これらの細菌は問題を引き起こしません。では、なぜ膿皮症が発症するのでしょうか?

皮膚のバリア機能の低下

犬の皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層から構成されています。表皮の最も表面にある角質層は、皮膚の乾燥を防止するほか、病原菌や外部環境中のアレルゲンなどの侵入を防ぐバリア機能を果たしています。このバリア機能が低下すると、常在菌が増殖し、感染を引き起こします。

興味深いことに、人間と比較して犬の皮膚は非常に薄いのです。人間の皮膚は毛が少なく露出していますが、犬の皮膚は毛に覆われているため比較的薄くなっています。この解剖学的な違いが、犬が皮膚感染症にかかりやすい理由の一つです。

膿皮症を引き起こす基礎疾患

膿皮症は単独で発症することもありますが、多くの場合、以下のような基礎疾患が背景にあります。

その他の要因

以下のような環境要因や生活習慣も膿皮症のリスクを高めます。

  • 高温多湿の環境(特に春から夏にかけて発症しやすい)
  • 不適切なスキンケア(合わないシャンプー、過剰なシャンプー、シャンプー不足など)
  • 外傷
  • 免疫機能の低下(高齢犬や子犬、ステロイドや抗がん剤による治療中の犬)
  • 悪性腫瘍

また、犬の皮膚はpHがアルカリ性である点も、細菌感染が起きやすい一因と言われています(人の皮膚は弱酸性です)。

膿皮症の診断方法と獣医師の役割

膿皮症の正確な診断は、効果的な治療のために非常に重要です。膿皮症はさまざまな皮膚疾患と症状が似ているため、専門的な検査が必要となります。

基本的な診断手順

獣医師は以下のような方法で膿皮症の診断を行います。

  1. 視診と触診:皮膚の外観を観察し、炎症や発疹の有無、分布を確認します。
  2. 皮膚押捺検査(皮膚の簡易検査):皮膚の病変部からセロハンテープやスライドグラスを皮膚に押し付けてサンプルを採取し、染色して顕微鏡で観察します。この検査で細菌の種類や量を確認できます。
  3. 被毛検査:被毛のサンプルを採取して、真菌感染などの有無を調べます。
  4. ウッド灯検査:特殊な紫外線ライトを使用して、特定の真菌感染の有無を調べます。

詳細な検査

基本的な検査で膿皮症と診断された場合や、治療に反応が見られない場合には、以下のような詳細な検査が行われることがあります。

  1. 細菌培養試験・薬剤感受性試験:感染の原因菌を特定し、その細菌に対してどのような抗生物質が効果的なのかを判定する検査です。特に深在性膿皮症や治療に反応しない場合には早期に実施することが推奨されます。
  2. 血液検査:内分泌疾患(甲状腺機能低下症やクッシング症候群など)の有無を調べます。
  3. アレルギー検査:食物アレルギーや環境アレルゲンに対するアレルギーの有無を調べます。40項目以上のアレルゲンに対する反応を調べる血液検査などが行われます。
  4. 皮膚生検:重度の場合や診断が難しい場合には、皮膚の一部を採取して病理検査を行うことがあります。

マラセチア皮膚炎との鑑別

膿皮症によく似た症状を示す疾患として、マラセチア皮膚炎があります。これは皮膚に常在するマラセチアという酵母菌が増殖して感染を起こす病気です。細菌感染と併発することもあるため、正確な診断が必要です。治療法が異なるため、膿皮症との鑑別が重要となります。

犬の膿皮症に効果的な治療法と薬

膿皮症の治療は、感染の深さや広がり、基礎疾患の有無によって異なります。適切な治療を行うことで、多くの場合は1ヶ月程度で症状が改善します。

1. 抗菌薬(抗生物質)による治療

深在性膿皮症や広範囲に広がった表在性膿皮症の場合、抗菌薬の内服治療が必要となります。

  • 投与期間:症状が改善した後も最低でも1週間、通常は3〜4週間の投与が必要です。
  • 注意点:処方された抗菌薬は指示された期間、必ず飲み切ることが重要です。途中で中止すると、再発や耐性菌の出現リスクが高まります。
  • 薬剤耐性:膿皮症の原因菌の30〜40%が抗生剤に耐性を持つという報告もあり、効果がない場合は細菌培養・薬剤感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を変更することがあります。

内服が難しい場合には注射による投与も可能ですが、長期間効果が持続する注射抗菌薬の種類は限られています。

2. 局所治療

表面性膿皮症や軽度の表在性膿皮症では、局所治療が主体となります。また、内服治療と併用することで効果を高めることができます。

抗菌シャンプー療法

  • 細菌に効果的な薬用シャンプー(クロルヘキシジンなど)を用いて週に1〜2回、または症状に合わせて全身または患部を洗います。
  • 2014年に膿皮症の治療ガイドラインが改定され、抗生剤の内服よりも外用薬やシャンプーでの治療が推奨されるようになりました。
  • シャンプー後は皮膚が乾燥しやすいため、保湿剤を併用するとより効果的です。

消毒薬・外用薬

  • シャンプーを行わない日に、クロルヘキシジンなどの消毒薬で患部を清潔に保ちます。
  • 抗菌成分を含む軟膏やスプレーなどの外用薬も使用されます。

3. 基礎疾患の治療

膿皮症の原因となっている基礎疾患がある場合は、その治療も平行して行う必要があります。

4. 補助療法

  • かゆみ止め:かゆみがひどい場合は、外用または内服のかゆみ止めを使用することがあります。
  • 保湿剤:皮膚のバリア機能を補助するために保湿剤を使用します。
  • エリザベスカラー:犬が患部をなめたり掻いたりするのを防ぐために使用します。

治療上の注意点

膿皮症は再発しやすい疾患です。特に基礎疾患がある場合は、完全に治療しても再発することがあります。継続的な管理と定期的な獣医師の診察が重要です。また、症状が改善したからといって自己判断で治療を中止すると再発リスクが高まるため注意が必要です。

膿皮症予防のための日常的なスキンケア

膿皮症は適切な日常ケアによって予防や再発防止が可能です。特に、皮膚のバリア機能を健全に保つことが重要です。

適切なシャンプーとスキンケア

正しいシャンプー方法は膿皮症予防の基本です。ただし、過剰な洗浄は逆効果になることもあります。

  • シャンプーの頻度:一般的には月に1〜2回程度が適切です。ただし、アレルギーやオイリーな皮膚の犬では週1回程度が良い場合もあります。
  • 適切なシャンプー選び:犬の皮膚タイプに合った低刺激性のシャンプーを選びましょう。人用のシャンプーは犬の皮膚のpHに合わないため使用しないでください。
  • シャンプー手順
    1. シャンプー前にブラッシングで被毛の汚れや絡まりを取り除く
    2. ぬるま湯で全身を十分に濡らす
    3. シャンプーを適量手に取り、泡立ててから全身にやさしく塗布
    4. 頭から尻尾まで丁寧に洗い、特に脇の下や股の間などの皮膚の重なる部分も忘れずに
    5. シャンプーを完全にすすぎ落とす(残留すると皮膚刺激の原因になります)
    6. タオルでやさしく水分を拭き取る
    7. ドライヤーで完全に乾かす(湿ったままだと細菌が繁殖しやすくなります)
  • 保湿ケア:シャンプー後は皮膚が乾燥しやすいため、犬用の保湿スプレーやローションを使用することで皮膚のバリア機能を保護します。

日常的なブラッシングとグルーミング

  • 定期的なブラッシングは被毛の通気性を良くし、皮膚の健康を保つのに役立ちます。
  • 被毛の長い犬種では、定期的なトリミングで皮膚の通気性を確保しましょう。
  • 散歩後は足や腹部の汚れをきれいに拭き取り、汚れや湿気を残さないようにします。

食事と栄養管理

皮膚の健康は内側からも支えられています。良質な食事は膿皮症予防にも効果的です。

  • バランスの良い食事:良質なタンパク質を含み、犬の年齢や健康状態に合った食事を与えましょう。
  • オメガ3脂肪酸:魚油などに含まれるオメガ3脂肪酸は皮膚の炎症を抑える効果があります。
  • ビタミンとミネラル:皮膚の健康に必要なビタミンA、E、亜鉛などを含むサプリメントも有効です。
  • 水分摂取:十分な水分摂取も皮膚の健康維持に重要です。

環境管理

  • 清潔な寝床:犬のベッドやブランケットは定期的に洗濯し、清潔に保ちましょう。
  • 湿度管理:特に梅雨や夏場など高温多湿の時期は、エアコンや除湿機を使って室内環境を整えます。
  • 定期的な健康診断:年に1〜2回の健康診断で、膿皮症のリスク因子となる基礎疾患を早期発見することも大切です。

膿皮症の予防や早期発見のためには、定期的に犬の皮膚や被毛の状態をチェックする習慣をつけましょう。普段と違う赤みや発疹、かゆみなどの異常に気づいたら、早めに獣医師に相談することが大切です。

皮膚は体の最大の臓器であり、内部の健康状態を反映します。日常的なケアを通じて犬の皮膚を健康に保つことは、膿皮症の予防だけでなく、愛犬の全体的な健康維持にもつながります。